肩関節唇・SLAP損傷に対する手術とは
肩関節唇は、肩甲骨の関節面の周囲を囲むように存在する組織で、肩関節の安定性を高める役割を担っています。SLAP損傷とは、肩関節唇の上方部分が前方から後方にかけて損傷した状態です。上方関節唇には上腕二頭筋長頭腱が付着しているため、投球やサーブなどで腕が強く引っ張られる動作が繰り返されると負担がかかります。
手術では、損傷した関節唇をアンカーと糸で肩甲骨の関節面へ固定するSLAP修復術が行われることがあります。
ただし、損傷の状態、年齢、競技、上腕二頭筋長頭腱の状態などによっては、損傷部分の切除や上腕二頭筋腱固定術などが選択されることもあります。どの手術を受けたかによって、術後の運動制限やリハビリの進め方は異なります。
このページでは、主に肩関節鏡によるSLAP修復術後のリハビリを扱います。
術後の進行は、損傷の種類や大きさ、使用したアンカーの数、同時に行った手術、肩関節の弛緩性などによって変わるため、全員に同じスケジュールを当てはめることはできません。
手術後に起こりやすい問題
肩関節唇が修復されても、すぐに以前と同じように肩を使えるわけではありません。術後には、次のような問題が残ることがあります。
- 腕が真上まで上がらない
- 肩を外側へひねりにくい
- 背中へ手を回しにくい
- 投球時に必要な肩の可動域が戻らない
- 腕を上げると肩がすくむ
- 肩に力が入りにくい
- ボールを強く投げられない
- サーブやスマッシュに不安がある
- 投球後に肩が張る、疲れる
- 腕を振るスピードが戻らない
- 肩をかばって肘や腰に負担がかかる
- 投球フォームが手術前と変わっている
- 復帰後の再損傷が不安
関節唇が治癒していることと、競技に必要な機能が戻っていることは同じではありません。
可動域、腱板筋力、肩甲骨の動き、全身の連動性、投球やサーブに耐える持久力などを、段階的に回復させる必要があります。
術後リハビリの流れ
術後の進行時期は手術内容によって異なります。以下は一般的な流れであり、実際には主治医の指示を優先します。1.修復部を保護する時期
術後早期は、修復した関節唇が肩甲骨側へ定着していく大切な時期です。装具を使用しながら、
- 痛みや腫れの管理
- 手指や手首の運動
- 肘関節の可動域維持
- 指示された範囲での肩の他動運動
- 肩甲骨周囲筋の軽い運動
などを行います。
この時期に自己判断で腕を上げる、重い物を持つ、手をついて身体を支える、肩を強くひねるといった動作は避ける必要があります。
SLAP修復では上腕二頭筋長頭腱の付着部周辺を修復するため、術後早期には肘を曲げる力や物を引き上げる動作が制限されることもあります。Mass General Brighamのプロトコルでも、初期は肩の自動運動、物を持つ動作、手で体重を支える動作、上腕二頭筋の収縮などを制限しています。
2.肩の可動域を回復する時期
修復部分を守りながら、腕を上げる、肩を外側へひねるといった可動域を徐々に広げます。早く可動域を戻そうとして強く伸ばしすぎると、修復部分に負担をかける可能性があります。一方、動かさない期間が長すぎると肩の硬さが残ることがあります。
そのため、
- 手術内容
- 術後の経過
- 痛み
- 肩の硬さ
- 修復範囲
- 主治医から指示された角度制限
を確認しながら進めます。
肩関節だけを無理に動かすのではなく、肩甲骨や胸郭の動きも確認します。
3.腱板と肩甲骨の機能を回復する時期
肩の可動域が回復してきたら、腱板と肩甲骨周囲筋のトレーニングを始めます。腱板は、腕を動かす際に上腕骨を関節面の中央へ保ち、肩関節を安定させる役割を担っています。
肩甲骨も単に「寄せる」のではなく、腕の動きに合わせて上方回旋、後傾、外旋などの動きが適切に起こることが重要です。
- 肩を外側・内側へひねる筋力
- 腕を上げる際の肩甲骨の動き
- 前鋸筋や僧帽筋の機能
- 肩がすくまない動作
- 腕を上げた位置での安定性
- 繰り返し動作に耐える持久力
などを段階的に高めます。
「棘下筋や小円筋を柔らかくすればよい」と一つの要素だけで考えず、可動域、筋力、肩甲骨、胸郭、競技動作を総合的に評価します。
4.身体を支える能力を回復する時期
競技によっては、腕を振る能力だけでなく、腕で身体を支えたり、相手との接触に耐えたりする能力も必要です。状態に合わせて、
- 壁での荷重運動
- 四つ這いでの安定性トレーニング
- プッシュアップ
- 不安定な状況での肩関節の制御
- 予測できない力に対する反応
- コンタクトを想定したトレーニング
へ進めます。
急に通常の腕立て伏せや高重量のベンチプレスを行うのではなく、修復部と肩の状態を確認しながら負荷を増やします。
5.パワーと動作速度を回復する時期
投球、サーブ、スマッシュでは、ゆっくりした筋力だけでは不十分です。短時間で腕を加速し、ボールやラケットへ力を伝えた後、腕の動きを安全に減速させる能力が必要です。
- 軽いメディシンボール運動
- チューブを使った素早い肩の運動
- 体幹回旋を伴うトレーニング
- 下半身から上半身へ力を伝える動作
- 腕を振った後に肩を安定させるトレーニング
などを行い、競技に必要なスピードへ近づけます。
肩だけでなく全身の連動を取り戻す
投球やサーブは、肩だけで行う動作ではありません。
脚で地面を押して生み出した力を、股関節、体幹、胸郭、肩甲骨、肩、肘、手へと伝えることで、効率よくボールやラケットを加速できます。
下半身や体幹をうまく使えないと、肩や肘だけに負担が集中します。
術後のリハビリでは、
- 股関節の可動域
- 下半身の筋力
- 片脚での安定性
- 体幹の回旋能力
- 胸郭の柔軟性
- 踏み込みから腕を振るタイミング
- 投球やサーブのフォーム
まで確認します。
手術した肩だけを強くするのではなく、肩へ過度な負担が集中しない身体の使い方を再獲得します。
スポーツ復帰に必要な確認
スポーツ復帰は、手術から一定期間が経過したという理由だけで判断しません。主に次の項目を確認します。
- 安静時や日常生活で痛みがない
- 肩の可動域が競技に必要な範囲まで戻っている
- 腕を上げても肩がすくまない
- 腱板筋力が十分に回復している
- 肩甲骨の動きに大きな左右差がない
- 腕を上げた位置で肩を安定させられる
- 腕立て伏せなどで肩に痛みが出ない
- 素早い動作を繰り返しても症状が出ない
- 投球やサーブ後、翌日に痛みや腫れが増えない
- 競技特有の練習を段階的に行えている
- 主治医から競技復帰の許可が出ている
一つの術後プロトコルでは、競技復帰段階へ進む基準として、痛みのない可動域、左右対称に近い肩甲骨の動き、肩の内旋・外旋筋力が反対側の85%以上であることなどを挙げています。ただし、これは一つの目安であり、競技やポジションに合わせた評価が必要です。
野球・投球競技への復帰
投球競技では、いきなり全力投球へ戻すことはできません。一般的には、
- 痛みのない可動域と筋力の回復
- 軽い投球動作の確認
- 短い距離でのキャッチボール
- 投球距離の増加
- 投球強度の増加
- 投球数の増加
- 平地での実戦的な投球
- マウンド投球
- 打者を想定した投球
- 練習試合・公式戦
というように、距離、強度、球数を一つずつ増やします。
投球中に痛みがないだけでなく、投球後や翌日の張り、痛み、可動域の変化も確認します。
投手と野手では肩に求められる負荷が異なるため、同じ復帰プログラムにはなりません。
ハンドボール・テニス・バレーボールへの復帰
ハンドボール
- 軽いパス
- 短い距離からのシュート
- 助走を伴わない投球
- 助走を伴うジャンプシュート
- コンタクトを受けながらの投球
- 実戦形式
テニス・バドミントン
- 軽いストローク
- ボレー
- ハーフスピードのサーブ
- サーブ強度と本数の増加
- スマッシュ
- ラリーや試合形式
バレーボール
- アンダーハンド・オーバーハンドパス
- 軽いスパイク動作
- ジャンプを伴わないスイング
- ジャンプスパイク
- サーブ
- ブロック
- 練習・試合形式
へ段階的に戻します。
競技復帰までの期間
SLAP修復術後の復帰時期は、修復範囲、競技、ポジション、筋力の回復、同時に行った手術などによって異なります。一般的なプロトコルでは、術後4〜6か月頃から競技復帰に向けた段階へ進む例がありますが、これは全力で試合に戻れる時期を意味するものではありません。
特に野球などの投球競技では、段階的なスローイングプログラムが必要となり、本格的な競技復帰まで9〜11か月程度を要したプロ野球選手の報告もあります。
したがって、手術をすると必ず1年以上かかるとも、半年経てば必ず復帰できるとも言い切れません。
手術からの期間と、実際に回復した身体機能の両方を確認することが重要です。
プラストレーナーズでの取り組み
1.手術内容と現在の状態を確認
可能な範囲で、- 手術名
- 修復した部位
- 上腕二頭筋腱への処置
- 同時に行った手術
- 主治医からの運動制限
- 病院でのリハビリ内容
を確認します。
2.肩の可動域・筋力評価
肩の挙上、内旋、外旋などの可動域と、腱板筋力、肩甲骨周囲筋の機能を確認します。単に腕が上がるかだけでなく、競技に必要な位置で力を発揮できるか、繰り返しても動作が崩れないかを評価します。
3.肩甲骨・胸郭・全身機能の改善
肩甲骨や胸郭、体幹、股関節などを確認し、肩だけに負担が集中しにくい身体を作ります。4.筋力・パワートレーニング
チューブやダンベルだけでなく、メディシンボール、プッシュアップ、全身のウエイトトレーニングなどを組み合わせます。ゆっくりした筋力から、競技で必要な速度とパワーへ段階的に進めます。
5.投球・競技動作の再獲得
投球、サーブ、スマッシュなどを実際に確認し、肩に負担が集中している動作や全身の連動性を評価します。距離、強度、回数を管理しながら、実戦へ近づけます。
6.病院のリハビリ終了後から競技復帰まで
病院でのリハビリが終了しても、- ボールを強く投げられない
- 肩の筋力が戻っていない
- 全力のサーブが怖い
- 投球数を増やすと痛くなる
- ウエイトトレーニングへ戻れない
といった課題が残ることがあります。
日常生活への復帰で終わらず、競技に必要な身体機能と負荷耐性を取り戻すところまでサポートします。
主治医の指示を確認しながら進めます
肩関節唇・SLAP損傷手術後のリハビリは、手術方法によって注意点が異なります。SLAP修復術、損傷部の切除、上腕二頭筋腱固定術、腱板修復術などでは、腕を動かせる時期や筋力トレーニングを始める時期が同じではありません。
プラストレーナーズでは、主治医から指示されている可動域制限や負荷制限を確認し、安全に配慮しながらリハビリ・トレーニングを進めます。
このような方はご相談ください
- 肩関節唇・SLAP損傷の手術を受けた
- 病院でのリハビリが終了したが筋力に不安がある
- 腕は上がるが強く投げられない
- キャッチボールをすると肩が張る
- 投球フォームが手術前と変わった
- サーブやスマッシュへ戻るのが怖い
- 肩を使うとすぐに疲れる
- 腕立て伏せやウエイトトレーニングへ戻りたい
- 段階的なスローイングプログラムを行いたい
- 手術前の競技レベルまで戻りたい
関節唇を修復することをゴールにせず、再び投げる、打つ、支える動作に耐えられる肩と身体を取り戻すことが大切です。
プラストレーナーズでは、肩の可動域や筋力だけでなく、全身の連動性と競技動作まで確認し、安心してスポーツへ復帰できる状態を目指します。


