野球肘は「ボールを投げることで肘に何らかの負担がかかり痛みを生じるスポーツ障害」ですが、肘にかかる負担は次のようなものがあります。
投球動作における肘にかかる負担は「外反ストレス」が最も大きく、障害(野球肘)の原因になるとされています。
その他「内反ストレス」や過伸展による「後方インピンジ(衝突)」も負担としてかかりますが、内反によるものは極めて少なく、インピンジも外反が伴いながら過伸展することでより大きなストレスとなるので、やはり外反ストレスが野球肘の大きな原因と言えます。

外側へのひねり。内側:小指側(内側側副靱帯や前腕屈筋群)が引き伸ばされ、外側はつぶれる。
投球動作ではトップからボールリリースまでかかり続け、しなりが最大になったときに外反ストレスも最大となりやすい。
外反ストレスの逆。内側がつぶれて外側が伸ばされる。
投球動作ではリリース直後にかかるとされているが、ごくわずかと思われる。
肘を伸ばし過ぎることで、肘の後ろで尺骨と上腕骨がぶつかる。繰り返すと炎症や疲労骨折、骨棘が発生する。
投球動作では、フォームによってはリリースからリリース直後にかかる。肘を伸ばしきるフォームでなければストレスはかからない。
外反ストレスが加わりながら伸ばし過ぎると後方インピンジメントや疲労骨折など肘後方型障害が発生しやすい。
「肘に負担の掛からない投球フォーム」というのは、上記のストレスがかからないフォームということです。
とは言っても、あくまでもそれは理想であって、全くこれらのストレスがかからないようにボールを投げることは不可能ですので、フォームを改良していく目標としては「肘にかかる負担が少ない投球フォーム」です。
野球肘にならないために、または野球肘からの競技復帰を目指す場合は、少しでも投球動作における肘への負担は少なくしておくべきですので「肘にかかる負担の少ない投球フォーム」の習得が不可欠になります。
また、負担の少ない動きというものは「身体をよりスムーズに使える」「効率的な動き」とも言えますので、パフォーマンスの観点から見ても習得しておいて損は無いでしょう。
負担が少なければ投げ込みも多く行えますので練習量も増やせます。
さて、では実際に「肘にかかる負担の少ない投球フォーム」というものは具体的にどういう投球フォームなのでしょうか。
最も重要なポイントは『しなりが身体全体で作れるか』というところです。
外反ストレスの項目で書いたように、最も大きくしなったタイミングは、肘にかかる外反ストレスが大きくなるのですが、うまく身体全体を使ってしっかりしなりきることが出来ると、肘にかかる外反ストレスを減らすことが出来ます。
しなりは投球動作において必要不可欠な動作ですので無くすことは出来ませんから、『肘に外反ストレスが大きく掛かるはずのしなるタイミングでいかに外反ストレスを減らせるか』ということが大切になります。
この『肘に負担の少ない身体全体を使ったしなり』は、言い方を変えると「肘が出る」「肘が柔らかい」とも表現されます。
※ここで注意が必要なのは「肘を出す」のではなく「肘が出るように身体全体を使う」ということ
最もしなりの大きくなるタイミングというのは、フォーム修正を行う際のチェックポイントではありますが、ここだけを直接修正することは望ましくありません。
なぜなら、しなり動作とその後のリリースまでの動きは無意識下での動作が多くなりますので、このポイントを直接修正しようとすると動きがバラバラになってしまう危険があります。
ですので、しなり動作を修正するにはそれより前のポイントを修正することが必要になります。
しなり動作を修正するために前のタイミングのポイントを考えると、それは「トップの形」です。
トップの形というのは人により認識が違うことが多いので、ここでは
『トップの形』=
「ステップ脚が着地した瞬間の形」
とします。
ボールを持った手の位置だけでなく、下半身もグローブを持った手も頭も含めた全身の形です。
これは投手でも野手でも同じ「ステップ脚が着地した瞬間の形」です。
ステップ脚が着地した瞬間に
*基本はストレートステップ
*体幹の回旋が始まっていない
(肩が開いていない、横向き)
*ボールを持った手が外旋位にある
(ボールが肘より上)
*肘は上げすぎない
(低くてもいい)
*重心は左右均等か相手寄り
*上半身はやや前傾(腹側)
*頭は体幹の真上か軸側股関節の上
大まかに挙げましたが、これらの形がトップとしてとれていれば、次の動作としてしなり動作を上手く作ることが出来ます。
言葉で書くと分かりにくいですし、いくつもあって難しく感じますが、プロ野球選手の分解写真などを見れば理解しやすいと思います。ステップ脚が着地した瞬間です。
ケガせずに良いパフォーマンスを発揮している選手のほとんどはこの形をとっていますし、パフォーマンスは高くても肘を故障している選手はどこかが違う形になっている場合が多いです。
メジャーリーグの田沢純一投手は肘の手術(トミージョン手術)を受けていますが、手術前はこのトップの形が出来ておらず(トップのタイミングで外旋位になっていなかった)、いかにも肘に負担の掛かりそうなフォームでしたが、最近ではキレイな形になってきていますね。ソフトバンクの和田毅投手も同様です。
プロ野球選手でも肘の手術を受けてなかなか復帰出来ない選手や、肘の故障を繰り返すような選手はこのポイントがとれていないように思います。
そういった選手はパフォーマンス(この場合は打者との駆け引きや見え難さなど)を求めて、あえてそうしているのでしょう。
プロは勝ち負けの世界ですので、痛かろうがオフシーズンに手術をしようが打者を打ち取れればいいわけですからね。
でも、少年野球選手は目先の勝負に固執し過ぎず、将来を見据えた練習、育成が大切です。
「肘に負担のかかりにくい投球フォーム」を習得、最低でも知っておく必要があります。
まずはトップの形をとれること。
肘に負担のかからない投球フォームの実現のためには、まずトップを正しいタイミングで正しい形で作ることが必要不可欠です。
そして、最も外反ストレスが大きくなる「最大限にしなったタイミング」でいかにその『外反ストレスを少なく出来るか』が大切になるのです。
そのために必要なことは、胸椎と胸郭、肩甲骨の動きです。
正しくトップを作りしなりを作りにいく動きの中で、胸椎と胸郭と肩甲骨が連動して動き、スムースにしなりを作ることで肘の外反ストレスを効果的に減らすことができます。
これは一般的には『胸の張り』と表現されることが多いですね。
この胸の張りがしっかりと作れると十分にしなることができ、外反ストレスを減らせます。
そして「肘にかかる負担の少ない投球フォーム」でもう一つ大切なことは、うまくしなった形から、ステップ脚の股関節上で体幹の回旋と前傾を用いてリリースへ向かうことです。
簡単に言うと「身体を使って投げる」「手投げにならない」ということです。
詳しいメカニズムの説明は省いて感覚的なことですが、腕の力をフルに使えばそれだけ負担が大きいですが、体幹を使えば負担を分散出来ますし発揮する力も大きくなります。
試合後半になるとボールが上ずる、抜けるボールが増える、押さえがきかないというような状態も体幹や股関節が上手く使えていないピッチャーに多い訴えです。
これらを無理に押さえ込もうと力んで腕で投げると、あっという間に肘を壊してしまいます。
少し話しは逸れますが、このリリースに向かう動作として最近指導されることが多くなっている「シュートを投げるように」「手を内側へひねって」「内旋で」ということは、絶対にやってはいけません。
良くなる選手もいるかも知れませんが、ケガをする選手が多すぎます。
このように指導されている野球肘の選手にその意識をやめてみるようにアドバイスしすると、次の1球から痛み無く投げられる選手が大勢います。
この内旋の動きは投球動作に必要不可欠な動きですが、100%無意識下で行われるべき動きで意識してはいけません。
プロ野球選手の分解写真やスロービデオで手の平が上を向いている様子からこのように指導されるのでしょうが、その後のフォロースルーまで手の平が上を向いている選手はいません。
つまり「ストレートを投げるために真っすぐ腕を振り下ろしているが、リリース後に勝手に手の平が上をむく」のです。
さて、長々と書いてきましたが「肘に負担の掛からない投球フォーム」のポイントは他にも体重移動や軸脚の使い方、肩甲骨の動きなど数多くありますが、ぱっと見て分かりやすいところをいくつか挙げました。
大切はことは、正しいトップの形を作り、胸郭と肩甲骨を使ってしなって投げることです。
写真や動画で説明を加えられるともっと分かりやすいですが、今回はご了承ください。。
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