不安定な台の上で片脚になりながらトレーニングをしたり、何本ものバンドで抵抗をかけながら競技動作をしたり、見たことのないエクササイズをしていたり。
それを見ると、
「これをやれば自分も上手くなるのでは?」
と思うのは自然なことです。
実際、上手い選手の動きやトレーニングを真似することは、スポーツが上達するうえで大切だと思います。
ただし、注意したいことがあります。
プロ選手がやっている“種目”だけを切り取って真似しても、その選手と同じ効果が得られるとは限りません。
なぜなら、そのトレーニングを選んでいる背景が、自分とはまったく違う可能性があるからです。
そもそものフィジカルレベルが違う
まず考えたいのが、プロ選手と一般の選手では、そもそもの身体能力が違うことです。長年トレーニングを続け、十分な筋力を持ち、走る、跳ぶ、止まるといった基本的な身体能力を高いレベルまで作ってきた選手が、その先の数%を伸ばすために行っているトレーニングかもしれません。
例えばプロ選手が、不安定な場所で片脚になりながら複雑なトレーニングをしていたとします。
そのトレーニング自体が悪いわけではありません。
ただ、まだ十分な下肢筋力がなく、基本的なスクワットやランジ、ヒップヒンジが安定してできない中高生が、同じトレーニングを最優先にする必要があるかというと、僕は違うと思います。
まずスクワットやヒンジ、ランジ、プッシュ、プルといった基本的な筋力トレーニングを行う。
そして、走る、跳ぶ、スプリントするといった基本的な身体能力を高める。
その土台があるからこそ、より専門的なトレーニングが生きてきます。
実際、レジスタンストレーニングは筋力だけでなく、パワーや身体機能の改善に有効であることが、多くの研究をまとめた2026年のACSMポジションスタンドでも確認されています。
エリートアスリートを対象とした研究でも、レジスタンストレーニングは競技パフォーマンスの向上につながることが報告されています。
「高度なトレーニング=より効果が高い」ではない
トレーニングは複雑であればあるほど効果が高いわけではありません。新しい器具を使う。
不安定な場所で行う。
複数の動作を組み合わせる。
競技動作にそっくりな動きをする。
こうしたトレーニングを見ると、ベーシックな筋力トレーニングより高度に見えます。
でも、高度に見えることと、今の自分に必要であることは別です。
2026年に発表された、さまざまな高度なレジスタンストレーニング方法を比較したシステマティックレビューでも、トレーニング経験の浅い人から中程度の人では、高度な方法が従来型のレジスタンストレーニングより一貫して優れているとは示されませんでした。研究者らも、高度な方法を使う場合には、その人の課題やトレーニング時期などを考慮する必要があるとしています。
つまり、
特殊なトレーニングが無効なのではなく、優先順位の問題です。
今の身体に足りないものが基礎筋力なのであれば、まずそこを上げる。
スプリント能力が足りないのであれば、しっかり走る。
ジャンプ能力が足りないのであれば、筋力とジャンプを鍛える。
土台がない状態で特殊なトレーニングばかり行うより、ベーシックなトレーニングをしっかりやり込んだ方が、総じて大きな効果を得られることは少なくありません。
SNSでは、その選手のトレーニングの「一部分」しか見えていない
もう一つ知っておきたいのが、SNSに投稿されているトレーニングは、その選手が行っているトレーニング全体ではないということです。30秒の動画で見たエクササイズ。
それが、その選手にとって最も重要なトレーニングとは限りません。
その前に何年もスクワットやデッドリフトをやり込んできたかもしれません。
普段は基本的な筋力トレーニングを継続しながら、その日にたまたま行った補助的な種目を投稿しているのかもしれません。
ケガからの復帰途中で、その選手だけに必要なリハビリとして行っている可能性もあります。
シーズン中のコンディショニングかもしれません。
あるいは、特定の弱点を改善するために期間限定で行っているトレーニングかもしれません。
そしてSNSですから、普通のスクワットを毎週淡々と行っている映像より、珍しいトレーニングの方が投稿として目を引くこともあります。
つまり、SNSで目立つトレーニングと、その選手にとって最も重要なトレーニングは同じとは限りません。ここを切り離して考える必要があります。
そのトレーニングには「その選手の課題」がある
僕がプロ選手のトレーニングを見るときに重要だと思うのは、「何をやっているか」だけではなく、
「なぜ、この選手はこれをやっているのか?」
と考えることです。
例えば片脚の安定性に課題があるから、このエクササイズをしているのかもしれない。
股関節で力を出す能力を高めたいのかもしれない。
ケガをした部分に段階的に負荷を戻しているのかもしれない。
競技中の特定の動作で出力を高めることが目的なのかもしれない。
その選手にはその選手の課題があります。
だから、そのトレーニングが非常に良いものだったとしても、同じ課題がない人が真似をすれば、優先順位は下がります。
逆に、自分に同じような課題があるのであれば、参考になる可能性があります。
トレーニング種目には、目的があります。
目的を無視して種目だけコピーすると、本来の意味から離れてしまいます。
「形を真似する」のはフォームでも同じ
これはトレーニングだけではありません。ピッチング、バッティング、ランニング、ゴルフスイングなど、スポーツのフォームも同じです。
上手い選手のフォームを真似することは、上達するうえで大切です。
子どもが上手な選手の動きを見て真似することも、スポーツ学習の基本の一つでしょう。
ただし、
見た目の「形」だけを合わせればいいわけではありません。
例えばプロ野球選手の投球フォームを見て、
「この位置まで腕を上げる」
「ここで足を着く」
「ここまで身体を倒す」
と形だけをコピーする。
でも本当に見たいのは、その形になった結果として、
どこが動いているのか。
どこで力を受けているのか。
どの順番で身体が動いているのか。
下半身で作った力がどう体幹へ伝わり、最終的に腕へ伝わっているのか。
という部分です。
身長も違います。
手足の長さも違います。
筋力も可動域も違います。
同じ形をそのまま再現できるとは限りません。
だから、形を真似するより、その動きの「質」を真似する。
この視点が大切です。
プロのトレーニングを真似するな、ではない
この記事で言いたいのは、「プロのトレーニングなんて真似しても意味がない」
ということではありません。
むしろ、どんどん見たらいいと思います。
世界トップレベルの選手が何をしているのかを見ることは、とても参考になります。
トレーニングもフォームも、上手な人を真似することはレベルアップの基本です。
ただし、その種目をやっている理由まで考える。
そして、自分に必要なトレーニングの優先順位を外さない。
筋力が足りないなら、まず筋力をつける。
速く走る能力が足りないなら、走る。
ジャンプ能力が必要なら、筋力やジャンプを鍛える。
自分の課題を把握した上で、必要ならプロ選手が行っている専門的なトレーニングも取り入れる。
その順番だと思います。
プロ選手がSNSで見せている一つの種目だけでは、その選手がそこに至るまで積み上げてきたトレーニングまでは見えません。
真似するな、ではない。
真似することは上達の基本です。ただし、「何をやっているか」だけではなく、「なぜそれをやっているのか」を真似する。
トレーニングでもスポーツフォームでも、見た目の形に惑わされず、本質を外さないことが大切だと思います。

