スポーツをしていると
「身体が硬いからケガをした」
「もっとストレッチした方がいい」
と言われることがあります。

PlusTRAINERSでも、ケガをした選手を評価すると、確かに身体が硬い選手は多いという印象があります。

ただ、身体が硬い=ケガをする
とまで単純には考えていません。

反対に、身体が柔らかければケガをしないわけでもありません。

ケガには、柔軟性だけでなく、その組織にどれくらいの負荷がかかったのか、その負荷に組織がどれくらい耐えられるのか、そして身体をどう使っているのかなど、いくつもの要素が関係します。
ケガは「柔軟性」だけでは決まらない
ストレッチをすればケガを防げる。
昔からよく言われてきました。

しかし、ストレッチ単独でスポーツ傷害全体を大きく減らせるというエビデンスは強くありません。

過去のシステマティックレビューでも、ストレッチ単独によって傷害全体が明確に減少するとは示されておらず、筋力トレーニングや固有感覚トレーニングなどを含めて考える必要があります。

これは、「柔軟性は必要ない」という意味ではありません。

ケガを柔軟性だけで説明することができない
ということです。

例えば同じように身体が硬い二人が、同じ競技をしていても、片方だけケガをすることがあります。

そこには、身体の使い方、練習量、筋力、過去のケガなどに加えて、腱や靱帯など組織そのものの耐性の違いも関係していると考えられます。
組織が「どれだけ耐えられるか」も人によって違う
腱や靱帯には、それぞれ力学的な特性があります。

どれくらい伸びるのか。
どれくらいの力に耐えられるのか。
どれくらいの負荷で破綻するのか。

こうした特性は、年齢や組織の状態、過去の損傷、トレーニング歴などによって変わります。

さらに、スポーツ障害は一度の大きな力だけで起こるわけではありません。
一回では問題にならない負荷でも、同じ組織に何度も繰り返しかかれば、微細な損傷が蓄積することがあります。

腱でも、最大強度以下の負荷を繰り返すことで疲労損傷が蓄積することが知られています。

つまりケガを考えるときには、
「何ニュートンの力がかかったか」だけでなく、その負荷を何回繰り返したのか、そしてその人の組織がどこまで耐えられたのか?という視点も必要です。

だから、同じフォーム、同じ練習量でも全員が同じようにケガをするわけではありません。
では、なぜ柔軟性が重要なのか
僕が柔軟性を重要だと考える理由の一つは、
身体を動かすときの選択肢を確保するため。です。

例えば股関節を十分に曲げたり回したりできれば、スポーツ動作の中で股関節を使って動くことができます。
反対に股関節が硬ければ、本来股関節で行いたい動きを腰で補わなければならないことがあります。

足関節でも同じです。
必要な背屈可動域があれば、ジャンプの着地や切り返しで足関節、膝、股関節を使って衝撃を分散できます。
足首が十分動かなければ、その分を膝や股関節など別の場所で補う必要が出てきます。

肩も同じです。
投球に必要な肩関節の可動域が不足していれば、肘や体幹など他の場所でその動きを補うことがあります。
実際、野球選手では肩関節の総回旋可動域や内旋可動域の不足と肩・肘障害との関連が報告されています。

つまり柔軟性は、「柔らかいから安全」なのではなく、負担の少ない動きを選択するための余裕を作ってくれる。と考えると分かりやすいと思います。
硬くても、うまく使えていれば問題ないこともある
一方で、身体が硬い選手でもまったくケガをしないことがあります。

自分が持っている可動域の中で効率よく動き、特定の場所に負担を集中させずに競技ができているのであれば、その選手にとっては問題にならないこともあります。

特に必要な柔軟性は、競技によって違います。
マラソンランナーと野球の投手では、身体に求められる可動域は当然違います。

投手は大きな肩関節外旋可動域を必要としますが、マラソン選手が同じ肩の柔軟性を持っている必要はありません。

野球の投手では、投球を続けることで肩の可動域や骨そのものにも競技特有の適応が起こります。投球側の肩が反対側と違うからといって、それだけで異常とは言えません。

重要なのは、その競技に必要な可動域を持っているか。です。

だからPlusTRAINERSでも、「左右差があるから全部そろえましょう」とは考えません。
その選手の競技、ポジション、動作を見ながら必要な柔軟性を考えます。
柔らかすぎても問題になる
では、柔軟性が高ければ高いほどいいのでしょうか。

これも違います。

関節が大きく動くことと、その関節を安定してコントロールできることは別です。

例えば肩関節が非常に緩い、いわゆるルーズショルダーの選手では、大きな可動域を持っていても、その範囲を腱板や肩甲帯の筋肉でコントロールできなければ不安定感や痛みにつながることがあります。

アスリートの関節過可動性と肩障害との関係を調べたメタ解析でも、関節過可動性を持つ選手では肩障害が多いという関連が報告されています。ただし研究の質には限界があり、過可動性だけで傷害が決まるわけではありません。

膝が大きく反張する選手や、足関節が非常に緩い選手でも同じことです。

大きな可動域を持っているのであれば、
その範囲を筋力で支え、コントロールできることが必要です。

つまり、
硬すぎても問題になることがある。
柔らかすぎても問題になることがある。
重要なのは、競技に必要な可動域と、それをコントロールする能力のバランスです。
特に注意して見るのが大腿四頭筋
競技によって評価する部分は変わりますが、PlusTRAINERSで特に注意して見ることが多いのが大腿四頭筋です。

実際、スポーツ選手を見ていると大腿四頭筋がかなり硬くなっている選手は少なくありません。
大腿四頭筋は膝関節をまたぐだけでなく、大腿直筋は股関節もまたぎます。

そのため硬くなると、膝を深く曲げる動作や股関節伸展などに影響し、スポーツ動作の中で膝や腰に負担を集中させる一因になることがあります。

ただし、
「大腿四頭筋が硬いから腰痛になった」
「硬いから膝をケガした」
と単純に因果関係を決めるわけではありません。

身体の使い方とセットで考えることが重要です。
ケガから復帰するときこそ柔軟性は重要
柔軟性は、ケガをする前だけではなく、ケガから復帰するときにも重要です。

例えば腰椎分離症。
骨が癒合して痛みがなくなったとしても、股関節や大腿四頭筋、ハムストリングスなどが硬く、競技に必要な動きが出せなければ、再び腰椎を過剰に動かしてしまう可能性があります。

その状態で、
「骨は治ったから競技復帰」
では十分とは言えません。

股関節を使えるだけの可動域を取り戻し、その可動域を実際のスプリント、ジャンプ、スイングなどの中で使えるようにする必要があります。

野球肩や野球肘でも同じです。

肩や肘の痛みがなくなったとしても、肩関節の可動域が十分ではなかったり、股関節や胸郭が動かなかったりすれば、元の投球動作を再現できません。

野球選手では肩関節可動域の不足だけでなく、股関節可動域など下半身の身体機能と肩・肘障害との関連も研究されています。特に近年のメタ解析では、投球側・非投球側を含めた股関節内旋可動域の不足と肩肘障害との関連が示されています。

リハビリでは、
痛みを取るだけでなく、やりたい動きをできるだけの身体機能を取り戻す
ことが重要です。
ストレッチして終わりではない
身体が硬い。
だからストレッチをする。

これは間違いではありません。

本当に必要な可動域が不足しているのであれば、ストレッチなどを使って改善する必要があります。
ただし、そこで終わりではありません。

新しく獲得した可動域を、自分の筋力でコントロールできるようにする必要があります。
そして最終的には、その可動域を走る、跳ぶ、投げる、切り返すといった競技動作の中で使えるようにする。

柔軟性 → 筋力 → 動作
までつながって初めて、その柔軟性がスポーツで役に立ちます。
「硬いからケガをする」ではない
身体が硬い選手にケガが多い。
現場ではそう感じることがあります。

ただ、科学的には、
「身体が硬いからケガをする」
と一つの原因だけで説明することはできません。

その人の組織がどれくらい負荷に耐えられるのか。
どれくらいの負荷を、何回受けているのか。
筋力は十分なのか。

そして、その限られた可動域の中でどのように身体を使っているのか。

いろいろな条件が重なってケガは起こります。
だから柔軟性は、ケガを防ぐための魔法ではありません。

それでも、競技に必要な可動域を持っていることには意味があります。
身体が動く余裕があれば、負担の少ない動き方を選べる余裕も増える。

そしてケガから復帰するときにも、その余裕があることで、痛めた部分だけに再び負担を集中させずに競技動作へ戻りやすくなります。

硬ければ何でも伸ばせばいいわけでもない。
柔らかければ安心というわけでもない。

その競技に必要な可動域があり、その可動域を自分の筋力でコントロールし、実際のスポーツ動作で使えること。

柔軟性は、そこまで含めて考えることが大切だと思います。