骨折をすると、
「骨がつくまでは安静」
というイメージを持つ人は多いと思います。

もちろん、骨折した部位を守ることは最優先です。骨折の種類や手術の有無によっては、荷重禁止や運動制限が必要な時期もあります。医師から絶対安静や特定の動作を禁止されている場合は、その指示に従う必要があります。

ただ、
患部を休ませることと、身体全部を休ませることは別です。

スポーツ復帰を目指す選手であれば、骨がつくまで何もしないのではなく、許可された範囲で患部以外は積極的にトレーニングしておいた方がいいと考えています。
固定している間にも、身体機能は落ちていく
骨折そのものだけでなく、固定や免荷による身体機能の低下も考える必要があります。
脚を使わない期間が続けば、筋量だけでなく筋力やパワーも低下します。

2023年のシステマティックレビューでは、片脚を使わない状態では1週間以内でも下肢筋力の低下がみられ、2週間を超えると筋力・筋量の低下がさらに大きくなることが示されています。

だから、骨がついた時点で、
「はい、治りました。競技復帰しましょう」
とはなりません。

例えば足首を骨折して1〜2か月固定していた選手なら、骨折部が治癒していても、ふくらはぎや大腿部の筋力、片脚で身体を支える能力、バランス、足首の可動域などは受傷前と同じとは限りません。

上肢の骨折でも同じです。

手首や前腕を固定していれば、その周囲の筋力は低下しますし、肩や肘まで動かさない生活が続けば、骨折していない関節まで動きにくくなることがあります。

骨が治るのを待っている間に、競技に必要な身体まで落としてしまわないこと。
これが患部外トレーニングを行う大きな意味です。
患部外は、できるならしっかり鍛える
僕は、医師から禁止されていないのであれば、患部を守りながら患部外はかなり積極的にトレーニングしていいと思っています。

例えば手首や前腕の骨折なら、患部に負担をかけない方法で下半身をしっかりトレーニングできます。

スクワット系の動作が安全にできるなら下肢筋力を維持する。バイクなどが可能なら心肺機能も落とさない。反対側の上肢もトレーニングできます。

反対に足部や足首、下腿を骨折して荷重が禁止されている場合でも、上半身の筋力トレーニングまで止める必要はありません。

安全な座位や臥位で上半身を鍛えることもできますし、医師の許可範囲で反対側の脚をトレーニングすることもできます。

鎖骨や上腕骨であれば下半身を、足の骨折なら上半身を。
「骨折したからトレーニングできない」ではなく、「今できるトレーニングは何か」を考える。
この考え方が大切です。

もちろん骨盤や脊椎の骨折、高リスクの疲労骨折、手術直後などでは全身的な運動制限が必要なケースもあります。

ですから「骨折なら何でも動けばいい」という話ではありません。

どこまで荷重していいのか、どの動作が禁止されているのかを医師に確認した上で、その範囲内は積極的に使う。

これが基本です。
反対側を鍛えることにも意味がある
面白いのが「クロスエデュケーション」という現象です。

例えば右腕が固定されているときに左腕を筋力トレーニングすると、トレーニングしていない右側の筋力低下まである程度抑えられる可能性があります。

実際、4週間片側の前腕をギプス固定した研究では、反対側の手首をトレーニングした群では、固定側の筋力や筋量の低下が抑えられました。

片側だけを鍛えても反対側にも神経学的な適応が起こる「クロスエデュケーション」は、複数の研究をまとめたメタ解析でも確認されています。

もちろん、
「反対側を鍛えておけば患側はまったく落ちない」
というほど万能ではありません。

それでも、固定期間中に何もしないより、使える側をしっかり使う意味はあります。
特に競技者の場合は、反対側だけでなく全身のフィジカルをできるだけ維持しておくことが、復帰後のトレーニングを進めやすくします。
固定されていない関節まで固めない
もう一つ重要なのが可動域です。

骨折では、骨そのものを守るためにギプスや装具で固定することがあります。
当然、固定されている関節は自由に動かせません。

ただし、固定されていない関節まで必要以上に動かさなくなる必要はありません。
例えば手首を固定しているからといって、医師から制限されていない肘や肩まで全く動かさない。
足首を固定しているために、膝や股関節までほとんど動かさない。

こういう状態が続くと、骨折していない部分まで機能が落ちてしまいます。

固定後のリハビリでは、関節のこわばりや可動域制限が問題になることがあります。過去の研究でも、適切な条件下での早期の運動は、長期固定と比較して可動域や機能を保つ方向に働くことが報告されています。

ただし、ここは骨折部位によって大きく違います。

例えば足関節骨折でも、早期荷重や早期運動の可否は骨折の安定性や手術方法によって変わります。2024年のCochraneレビューでも、一部の術後足関節骨折では早期荷重が可能な場合がある一方、リハビリ方法についてのエビデンスには不確実な部分も残っています。

だから重要なのは、
早く動かせばいい、ではなく、「動かしていいものは早めから動かしておく」こと。

固定が外れてから慌てない
ギプスや装具が外れたとき、
「やっと動かせる」
となります。

でも、その時点から初めてリハビリを考えるのでは少し遅い。
理想は、固定中からできることをやっておき、固定解除後にすぐ次の段階へ進める状態を作っておくことです。

固定が外れた後は、まず可動域を戻す必要があります。
腫れや痛みを確認しながら、関節を少しずつ動かす。筋肉に再び力を入れ、荷重が許可されれば体重をかける練習も行います。

ここで焦って一気に動かそうとするのも違います。
長期間動いていなかった関節や筋肉に、いきなり受傷前と同じ負荷をかければ、痛みや腫れが強くなることがあります。

固定中はできることを積極的に。固定が外れたら段階的に。
このバランスが大切です。
骨がくっついた=スポーツ復帰ではない
ここは特にアスリートに伝えたいところです。

レントゲンを見て、
「骨はついています」
と言われた。

これは非常に大切な一歩です。
でも、骨がついたことと、競技に戻れることは同じではありません。

例えば下肢の骨折であれば、普通に歩けるようになった後にも、片脚で身体を支える、走る、ジャンプする、着地する、切り返すといった能力が必要です。

上肢なら、可動域を取り戻し、筋力を戻し、投げる・打つ・押す・支えるといった競技特有の動作へつなげなければなりません。

骨のストレス障害からランニングへ戻す研究でも、骨の圧痛が消えていること、痛みなく歩けること、必要に応じた画像評価、筋力や荷重能力などを確認した上で、段階的に走行を再開する考え方が示されています。

骨折の種類によって基準は違いますが、
画像だけではなく、身体機能を見て復帰する
という考え方は同じです。
復帰は0か100ではない
骨癒合が確認されたから、その翌日から試合に100%復帰する。
これは基本的には考えません。

まずジョギング。
次に少し速く走る。
ジャンプや切り返しを入れる。
競技動作を行う。
チーム練習の一部に参加する。
その後、練習量や強度を上げて試合へ戻していく。

もちろん、この順番や内容は競技と骨折部位によって変わります。
そして、翌日に痛みや腫れが増えていないかも確認します。

骨折からの復帰は、「できたかどうか」だけではなく、その負荷に身体が耐えられたかを見ることが重要です。
チームのスケジュールも考えておく
アスリートの場合、身体だけを見ていればいいわけでもありません。

いつ大会があるのか。
いつからチーム練習に合流したいのか。
復帰後にどれくらい練習期間を確保できるのか。

こうしたスケジュールも重要です。
もちろん、大会があるから骨の治癒を早めることはできません。
医学的に必要な期間を飛ばして復帰するべきでもありません。

ただ、例えば2か月後に大会があると分かっているのであれば、
「骨がついてからトレーニングを始めよう」
ではなく、骨が治っている期間にも、戻せる身体能力はできるだけ戻しておく。

そうすれば競技復帰に向けた準備期間を有効に使えます。
競技者にとって、骨折期間の過ごし方は復帰後にかなり影響します。
骨折期間を「何もしない期間」にしない
骨折はしっかり治さなければいけません。
ここを急ぐ必要はありません。

でも、骨が治るのを待つことと、何もしないことは違います。

患部を守りながら、反対側の手足を鍛える。
患部外の筋力を落とさない。
心肺機能をできるだけ維持する。
許可された関節は動かしておく。
固定が外れたら可動域と筋力を段階的に戻す。

そして骨癒合が確認された後は、ランニング、ジャンプ、切り返し、競技動作と順序を踏んでスポーツへ戻していく。

骨折期間中にここまで考えておけば、復帰時に
「骨は治ったけど、身体が全然動かない」
という状態をできるだけ減らすことができます。

僕は骨折した選手には、
「患部はしっかり休ませる。でも、選手としては休みすぎない」
という考え方が大切だと思っています。

骨がつくまで待つだけではなく、骨がついたときに次へ進める身体を、固定期間中から準備しておきましょう。