スポーツで身体を痛めたとき、
「しばらく休めば治るよ」
と言われることがあります。

これは間違いではありません。

負荷を減らすことで痛みが落ち着くこともありますし、時間とともに組織が修復されていくケガもあります。

ただ、スポーツ復帰を考えるのであれば、「休んで痛みがなくなった=元通りに治った」ではありません。
ここはかなり大切です。

そもそも一言で「治る」といっても、組織そのものが修復されること、痛みがなくなること、筋力や可動域などの身体機能が戻ること、そして競技で以前と同じ動きができることは、それぞれ別の話です。

しかも、ケガをした組織によって「治り方」もかなり違います。
組織によって「治る」の意味は違う
例えば肩の腱板。
腱板が断裂している場合、休んでいれば必ず腱が自然に元通りつながる、というものではありません。
特に慢性的な全層断裂では、画像上は断裂が残ったまま経過することがあります。

一方で非常に重要なのは、腱板断裂が残っていても、リハビリによって痛みや可動域、筋力、日常・スポーツ機能が改善する人がいるということです。

全層腱板断裂に対する運動療法をまとめたシステマティックレビューでは、非手術療法を行った患者の多くで痛み、可動域、筋力、機能の改善が報告されています。つまり、「断裂がなくなったから良くなった」のではなく、周囲の筋機能や肩甲帯の働きなどを改善することで、断裂が存在していても機能を取り戻せるケースがあります。

さらに、MRIで腱板の異常があっても痛みのない人は珍しくありません。2025年のシステマティックレビューでも、無症状の肩に腱板の部分断裂や全層断裂などの画像所見が見つかることが報告されています。 

つまり、
画像が正常=痛くない、画像に異常がある=痛い
というほど身体は単純ではありません。
半月板は場所によって治りやすさが違う
膝の半月板も分かりやすい例です。
「半月板は治らない」と言われることがありますが、正確にはもう少し複雑です。

半月板の外側には血流がある領域があり、内側へ行くほど血流が乏しくなります。そのため外周部のいわゆるred-red zoneは比較的治癒しやすく、中央部のwhite-white zoneは自然治癒能力が低いと考えられています。修復術後についても、血流の豊富な領域ほど治癒率が高いことが示されています。 

だから、
「半月板損傷なら全部治らない」も、
「休めば全部治る」も正しくありません。

損傷部位、形、大きさ、年齢、外傷性か変性性かなどによって対応は変わります。
そしてここでも面白いのが、構造的な損傷があることと、症状があることは同じではないという点です。

中高年の変性半月板損傷では、運動療法を中心とした理学療法が、長期的な膝機能について関節鏡手術に劣らなかったというランダム化比較試験もあります。

つまり、半月板そのものを新品のような状態に戻さなくても、筋力や関節機能、動作を改善することで痛みなく生活やスポーツができる人がいます。
関節唇も「画像を治す」ことだけが目的ではない
肩や股関節にある関節唇も同じように考える必要があります。

例えば肩のSLAP損傷。
関節唇の損傷自体が画像上残っていたとしても、肩関節の可動域、腱板機能、肩甲骨周囲筋、動作のコントロールなどを改善することで、手術をせず競技へ戻れる選手もいます。

SLAP損傷を非手術で治療したアスリートをまとめたレビューでは、リハビリを完遂できた選手では約8割が競技復帰していました。もちろん全員がうまくいくわけではありませんが、「関節唇が損傷している=リハビリではどうにもならない」ではありません。

また、痛みのないアスリートをMRIで調べても、関節唇や腱板の異常所見はしばしば見つかります。画像所見だけでは、その選手の痛みや競技能力をすべて説明できません。

だからリハビリでは、画像だけを見るのではなく、
実際に動けるのか。力を出せるのか。競技動作を痛みなく行えるのか。

そこまで見ていく必要があります。
靱帯も「切れたものが新品に戻る」わけではない
靱帯も一括りにはできません。
例えば膝の内側側副靱帯(MCL)は比較的治癒能力が高く、保存療法で治療されることが多い靱帯です。

ただし、治癒の過程では元の靱帯組織そのものが完全に再生するというより、瘢痕組織を介して修復されます。研究でも、治癒した靱帯は構造や力学的性質が受傷前と完全には同じにならないことが示されています。

一方、ACL(前十字靱帯)はMCLとは性質が違います。
従来、ACLは自然治癒能力が非常に低い靱帯と考えられてきました。

近年は、特定のACL断裂ではリハビリ後にMRI上の連続性が回復する例も報告されており、「ACLは絶対に治らない」とまで言い切るのも正確ではなくなってきています。ただし、誰が治癒するか、どこまで安定性や競技能力が戻るかについてはまだ議論があります。

つまり靱帯も、
「靱帯だからこうなる」ではなく、どの靱帯を、どの程度、どこで損傷したのか
によって話が変わります。
肉離れは治る。でも「何もしなくても元通り」ではない
筋肉は比較的再生能力の高い組織です。
肉離れを起こしても、多くの場合は時間とともに損傷部が修復されます。

ただし、この修復過程でも筋線維が完全に元の状態に戻るだけではなく、結合組織や瘢痕形成を伴います。

筋損傷後は、炎症、筋再生、線維化といった過程が同時に進み、損傷が大きかったり条件が悪かったりすると線維化が増え、完全な機能回復を妨げることがあります。

だから肉離れも、
「痛みがなくなるまで休んだ。もう治った」
では十分ではありません。

痛みがなくても、筋力が落ちていることがあります。
速い速度で力を出せないこともあります。

ハムストリングスなら、ジョギングはできても全力疾走ではまだ受傷前の能力に戻っていない、ということも普通にあります。

そこを戻すのがリハビリです。
実は骨は、かなり「元通り」に戻れる組織
ここは少し意外かもしれません。

骨折すると、
「一度折れた骨だから元通りにはならない」
というイメージを持つ人もいます。

でも骨は、他の多くの組織と違い、瘢痕だけで修復されるのではなく、最終的に元の骨構造に近いところまでリモデリングできる非常に再生能力の高い組織です。
一般的な骨折治癒では仮骨が形成され、その後時間をかけてリモデリングされ、正常に近い骨構造へ変化していきます。条件が良ければ力学的性質もかなり回復します。

もちろん、関節面の骨折、変形治癒、偽関節などでは後遺症が残ることもあります。
そして骨がくっついたとしても、長期間固定していたことで筋力や可動域が落ちていることはあります。

つまり、
骨癒合=スポーツ復帰
ではありません。

ここでもやはり、「組織が治る」と「身体機能が戻る」は別です。
「痛みがなくなった」はゴールではない
僕が一番伝えたいのはここです。
休んでいると痛みがなくなることがあります。
それ自体は良いことです。

ただ、
痛みがなくなったことと、ケガをする前の身体に戻ったことは同じではありません。

例えば2か月間スポーツを休んで膝の痛みがなくなった。
でも、その間に大腿四頭筋や臀部の筋力が落ちている。
片脚で身体を支える能力も落ちている。
ジャンプや着地、切り返しもしていない。

その状態で、
「痛くないから明日からチーム練習100%」
では、身体の準備が追いついていません。

肩でも同じです。
投げなければ肩の痛みは消えるかもしれません。

でも肩関節の可動域や腱板機能、肩甲骨の動き、胸郭や股関節の機能が改善していなければ、また同じように投げ始めた時に同じ問題が起きる可能性があります。

休むことで「刺激」をなくしたから痛くなくなっただけなのか。
本当にその刺激に耐えられる身体に戻ったのか。

ここは分けて考える必要があります。
待っているだけでは戻らないものがある
組織には時間が必要です。

骨折を早く治そうとして無理に負荷をかければいいわけではありませんし、手術後や急性期には医師の指示に従って保護しなければいけない期間があります。

でも、だからといって、
時間が経てばすべて勝手に元に戻るわけでもありません。
筋力は待っていても戻りません。
低下した柔軟性も、待っているだけでは改善しないことがあります。

バランス能力、ジャンプ能力、スプリント能力、投球能力、切り返し能力なども、実際に段階的に刺激を入れて戻していく必要があります。

ここがリハビリの役割です。
リハビリは「患部を治すための運動」だけではありません。

ケガをする前に持っていた身体機能を取り戻し、さらに競技で必要な負荷に耐えられるところまで戻す作業だと思っています。
組織が完全に元通りでなくても、スポーツはできる
これは逆に、前向きに捉えてほしい部分です。

MRIを撮ったら腱板に断裂がある。
半月板に損傷がある。
関節唇に損傷がある。

そう聞くと、
「もう元通りスポーツはできないのでは?」
と思う人もいます。

でも、そうとは限りません。
身体は、一つの組織だけで動いているわけではありません。

周囲の筋肉を強くする。可動域を改善する。動きを変える。負荷への耐性を高める。

そうすることで、構造上の変化が残っていても痛みなく高いレベルでスポーツを続けられる人はいます。

反対に、画像上は「治った」と言われても、筋力や動作が戻っていなければ満足にスポーツができないこともあります。

だから僕は、
画像を元通りにすることだけがリハビリの目的ではない
と思っています。

大切なのは、その人がやりたいことをできる身体に戻すことです。
患部を休ませる期間も、身体全部を休ませる必要はない
そして、これはおまけですが、ケガをしたからといって身体全部を休ませる必要があるとは限りません。

もちろん医師から運動制限が出ている場合は、その指示が最優先です。

その範囲内で、患部に負担をかけない上半身や下半身のトレーニング、体幹、心肺機能などを維持できることもあります。

競技を休んでいる数週間、数か月を、
「ケガが治るのを待つだけの時間」
にするのか、

「治している間に他の身体能力を落とさない時間」
にするのか。

復帰した時の差は大きいと思います。
「休めば治る」の先まで考える
休養は大切です。
組織が治るために負荷を減らさなければいけない時期もあります。

だから、
「休めば治る」は正しい。
でも、「休んで痛みがなくなれば、元通りだからすぐスポーツに戻っていい」
となると、それは少し違います。

組織がどう治ったのか。
筋力は戻ったのか。
可動域は戻ったのか。
片脚で身体を支えられるのか。
走れるのか。跳べるのか。切り返せるのか。投げられるのか。
そして、その競技で必要な強度まで耐えられるのか。

そこまで確認して初めて、スポーツ復帰につながります。

痛みがなくなることをゴールにしない。
競技に必要な身体機能まで戻す。

ケガから本当に復帰するためには、そこまで含めてリハビリだと考えています。